皆さんはフィンランド症候群について聞いたことがありますか?
実は、そのような病気はありません。
フランスの週刊誌が、ある研究を「フィンランド症候群」と名付け記事にしました。
それを引用した本が日本で翻訳され、日本にも伝わりました。
フィンランド症候群は医学用語ではなく、主に日本とフランスでのみ通用するマスコミが作り出した架空の疾患名です。
元となった研究は、フィンランドの保険局が1974-1989年に行った介入調査 (Helsinki Businessmen Study)です。
1974年当時ヘルシンキに住む40-55歳の男性会社役員で、心臓血管系の危険因子をかかえながら、今は病気になっていない1,222人を対象としました。
612人には5年間、定期的な健康診断をし、タバコや飲酒を控えるなどの指導をし、必要に応じて、高脂血症や高血圧の薬を投与されました(介入群)。
別の610人には何もせず様子を見ました(対照群)。
ところが、15年後の1989年には介入をしたグループの方が、死亡率、心疾患死亡率とも高かったというものです。
これは、一見、逆説的な結果であったため、おもしろおかしく、週刊誌等で取りあげられ、フィンランド症候群と名付けられたのでした。
だから、「禁煙や禁酒は意味がない」あるいは、「ストレスはよくない」などの根拠に取りあげられることも多いようです。
でも、それは間違っています。
実は、介入群に禁煙や禁酒の指導はしていたのですが、実際には指導は効果がなく、2グループに喫煙量や飲酒量の差はなかったのです。
ですので、少なくとも、禁煙や禁酒が意味がないとの結論は出せません。また、ストレスが悪いという根拠にもなりません。
むしろ、介入で使用された薬剤の副作用によるという解釈が有力です。
さらに、困ったことには、
反禁煙の立場の人が、この研究を誤用(悪用?)していることです。皆さんもよく知っている文化人や、医師が誤って、文献を引用しています。
なぜ、間違って引用しているのでしょうか?それには、2つ理由が考えられます。
1. 元文献を読まずに、書籍などから間違った記載を安易に引用している。
2. 誤用だと知りつつ、反禁煙の立場の人(タバコ会社や御用学者)が確信犯的に使用している。
最近でも、禁煙するとストレスでかえって死亡リスクが高まるなどと根拠のないことを言われる方もおられるようです。
真実を見極める目を養いたいものです。
<Helsinki Businessmen Studyについての文献>
1. Strandberg TE, Salomaa VV, Naukkarinen VA, Vanhanen
HT, Sarna SJ, Miettinen TA. Long-term mortality after 5-year multifactorial primary prevention of cardiovascular diseases in middle-aged men. JAMA. 1991 Sep 4;266(9):1225-9.