いまだに、タバコはぼけ(認知症・痴呆)を予防すると勘違いしている方がおられます。最近、医師が出した本でも間違って書かれています。間違った知識が広まってはまずいと考えますので、ここに書きます。
実は、
→タバコを吸うとぼけやすい (認知症になりやすい)
ことが医学的には証明され、ほぼ決着がついています。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
確かに、1994年に出版された本に『タバコはボケを防止するか』というものがありました。
浜松医科大学の高田明和名誉教授が書かれた本ですが、その中で、『タバコを多く吸う人ほどアルツハイマー病になりにくいといえてしまうことになる。』と書かれています。
現在でもJT(日本たばこ産業) の関連団体である喫煙科学研究財団のホームページには、
『アルツハイマー病のなかの家族性アルツハイマー病において、喫煙とその発生率に負の相関関係が示唆されており1)、喫煙がアルツハイマー病の発症に予防的に働いている可能性が考えられる。』
1) van Duijn,C.M., Hofman,A. Relation between nicotine intake and Alzheimer's disease. Br. Med. J. 301: 1491-1494, 1991.
と書かれています。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
この論文も含め、確かに過去に「喫煙はアルツハイマー型痴呆を予防する」とした症例対照調査(後ろ向き調査)と小規模追跡調査が発表されました。しかしその後、「喫煙はアルツハイマー型痴呆を引き起こす」としたより信頼のおける大規模追跡調査 (前向き調査) がいくつも発表され、
現在では喫煙はアルツハイマー型痴呆の主要な危険因子と見なされています。
実は、『タバコはボケを防止するか」の作者は現在は本の内容を否定されています。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------
「データが語る 生老病死」 「喫煙で痴ほう発症早まる」
浜松医科大教授 高田明和 毎日新聞夕刊 2000年11月18日 記事より
『「たばこを吸って肺がんになるか、吸わずにアルツハイマー病になるかだよ」というような冗談が喫煙者の間で交わされることがある。
アルツハイマー病では脳内のアセチルコリン伝達物質にする神経が死滅していると いう特徴がある。アセチルコリンが神径を刺激する時の受容体はニコチンによっても 刺激されるので、たばこのニコチンがアセチルコリン神経を刺激すると考えられたのだ。
喫煙はストレス解消に役立つと考える人が多いが、ストレスは脳細胞を死滅させ、 ぼけを促進する。これも喫煙がアルツハイマー病を予防する理由の一つとされた。事実、喫煙者に家族性アルツハイマー病を防ぐという論文も発表された。しかし、我々の多くを襲う散発性のアルツハイマー病の予防に効果があるという報告はほとんどなかった。つまり家族性アルツハイマー病のデータが拡大解釈されていたのだ。
最近、英国で3万4000人以上の男性医師を約50年間追跡調査した結果が報告され た。それによると喫煙はアルツハイマー病や血管性の痴ほうを抑制する効果はなく、 むしろ発症年齢を低下させることが示された。また、10年以上も前に喫煙をやめた人
も喫煙者と同じくらい痴ほうになる危険があるということも分かった。』
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
なぜ、このように研究結果がひっくり返ったかというと、過去にさかのぼって研究(後ろ向き研究)すると、「認知症で喫煙できなくなった」「アルツハイマー病で過去に喫煙していたことを忘れてしまった」などで調査が狂いやすいことと、もっとずばりいうと「喫煙者は肺がんや心臓病、脳血管疾患で早死にするため、ぼけるまで生きていられない。したがって現在生きている人で調査をする後ろ向き研究では、間違った結果が出る。」ということがあります。そこで、未来に向かって行なう前向き研究をしたところ、タバコを吸うとぼけやすいという結果が出たわけです。
今からでも間に合います。タバコを止めてぼけ予防をしませんか?
<参考>
には「たぱこはアルツハイマー病を予防する? 喫煙をめぐる「ニセ情報」の氾濫」の記事があります。
記事を一部引用します。
『「煙草は〇〇に効用があった!」....。男性週刊誌を頻繁ににぎわすのが、こうした珍ネタだ。代表的なのは、「喫煙するとアルツハイマー病になりにくくなる」だろう。現在でも、たばこ会社寄りの医学者や財務省の役人は、「たばこと健康」について触れると、必ずこの話を持ち出す。だが、今どきまともな医学者でこの話を信じている人はいない。........』
<アンチ禁煙の裏にはタバコ会社あり>
『タバコはボケを防止するか』高田明和 著 1994年刊
この本のあとがきには、「この本を書くには喫煙科学研究財団の協力を得た。特に事務局長の清水義治氏には多くの資料を提供していただいた。ここに心より感謝申し上げる。」
(喫煙科学研究財団は JTの株式の50%を保有する財務省管轄の団体であり、JT からの寄付により助成を行なっているJTとは表裏一体の組織です。喫煙科学研究財団の助成による 研究は重大な利害相反を引き起こす恐れがあります。
下記は同じ出版社から発売されています。(株式会社WAC (ワック))
1. 『愛煙家通信』 喫煙文化研究会編
喫煙文化研究会はJTとの関与は明示されてはいませんが、JTの影響を強く受ける方々が作った団体です。
2. 『 免疫力アップがすべてのポイント!
“健康常識"はウソだらけ』奥村
康 (2012/4/20)
(奥村教授は免疫学の権威の先生なのですが、上記著書に「たばこと肺がんは因果関係がない」と堂々と書かれており、さらに愛煙家通信にも寄稿されており、喫煙文化研究会の呼びかけ人の一人です。)
3.『「タバコと酒」の健康常識はウソだらけ』 橋内 章 (2013/8/12)
最近出た本ですが、「喫煙者にはボケ老人が少ない」との間違った記載あり。愛煙家通信にも寄稿されています。今回、私がこの記事を書かなくてはいけないと思った原因の本です。
などが出版されています。
タバコ会社の影を感じるのは私だけでしょうか?
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
認知症:以前 ”ぼけ”"痴呆"と言われていたもので、原因疾患として、アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。大脳皮質の変性疾患であるアルツハイマー病と大脳の多発性の脳梗塞などの血管性病変によって生じる脳血管認知症が大部分を占めます。
なお、タバコを吸うと脳梗塞など脳卒中になりやすくなりますので、脳血管性認知症にも当然なりやすくなります。
<タバコがアルツハイマー病の危険因子であることを証明した論文リスト>
1. Almeida OP, Hulse GK, Lawrence D, Flicker L. Smoking as a risk factor for Alzheimer's disease: contrasting evidence from a systematic review of case-control and cohort studies. Addiction. 2002
Jan;97(1):15-28.
2. Launer LJ, Andersen K, Dewey ME, Letenneur L, Ott A, Amaducci LA, et al. Rates and risk factors for dementia and Alzheimer's disease: results from EURODEM pooled analyses. EURODEM Incidence
Research Group and Work Groups. European Studies of Dementia. Neurology. 1999 Jan 1;52(1):78-84.
3. Ott A, Slooter AJ, Hofman A, van Harskamp F, Witteman JC, Van Broeckhoven C, et al. Smoking and risk of dementia and Alzheimer's disease in a population-based cohort study: the Rotterdam
Study. Lancet. 1998 Jun 20;351(9119):1840-3.